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先日、NHKで真夜中にひっそりと放送された『古代中国英雄伝説「曹操と孔明」』という番組を観た。

〔目次〕
劉備を禁忌とし、必死で曹操を称えるNHKの背景
殺戮を「無かったこと」にする典型的なファシズム番組
孔明のエピソード、孟獲をチョイスした謎(このため思想が引き裂かれた)


■劉備を禁忌とし、必死で曹操を称えるNHKの背景


上の番組紹介ページから解説を引用。赤字クエスチョンマークは筆者による。
番組内容
奸臣・曹操に悲劇の名軍師・諸葛孔明が挑む三国志の物語。2009年、河南省で曹操墓が発掘され曹操が名君だったことが明らかに??なった。さらに孔明の意外な実像も浮かぶ。

詳細
奸臣・曹操に悲劇の名軍師・諸葛孔明が挑む三国志の物語。 実は、私たちが知るエピソードの多くは、後の時代に脚色されたもの。ところが、2009年、河南省で曹操墓が発見された。今回、曹操と思われる遺骨などが外国のテレビに初めて公開された。発掘から明らかになる曹操の実像は、意外な名君の姿だった。また、諸葛孔明は、実は軍師としての才能より政治家としての才能が勝っていたのではないかと、実像が見直されつつある。
まず、劉備の劉の字も出ないことに激しく違和感を抱いた。
フィクションの設定は知らないが、歴史事実として「曹操」に対峙したのは「劉備」でしょう。フィクションはともかく「これが史実」として劉備に一言触れるくらいはあってもいいはずだが。
何、NHKは「劉」の字を出せない政治的理由でもあるの?
君たちがリーダーと崇める、中国政府の主席様から怒られてしまうのだろうか。
(現代中国政府は、民主化リーダーの象徴である「劉あかつき・なみ」氏を連想する劉備について語ることを嫌う)

その話はとりあえず措いて。

結論から述べると、NHKがこの番組を使って最も言いたいのは、どうやら
「曹操はフィクションで悪役扱いされてきたが現実は違っていた」
「曹操は名君だった」
ということであったらしい。
しかしその曹操を名君とする根拠が、曹操の墓から皇帝に等しい宝物が発見されなかったことだという。笑

NHK曰く、
「曹操は自分の葬礼を華美にするなと遺言していた。現に、曹操の墓は皇帝より遥かに質素だと分かった。当時の皇帝は葬礼を華美にするのが一般的だったのに華美にしなかった曹操サマ、素晴らしい!」
「結論。我が曹操サマは名君だった」
とのことだが。

……まず、曹操は皇帝ではないから「皇帝と同等」の埋葬をされなかったのは当然だと思う。
それから番組自身が伝えていたのだけど、曹操の墓は幾度も盗掘に遭って全て盗み尽くされ、曹操自身の骨もバラバラに砕かれて床に放置されていたのだよね?
それなのに墓に宝物がなかっただけで、どうして曹操が「名君」だという裏付けになるのか。
そもそも葬礼が華美ではないことだけを理由として「名君」とするのは、論理の飛躍も甚だしい。

日常生活が華美ではなかった独裁者など世界中にたくさんいる。
〔例〕※
 ヒトラー
 毛沢東
 スターリン

歴史に名高いファシストばかりだな。
何故か大量虐殺と残虐な拷問が大好きだという点も似通っている。
このリストに曹操も載る。
特に、現代中国人は毛沢東と曹操のイメージを重ねている。
だから毛沢東とよく似た曹操は崇拝しなければならない、「名君」でなければならない歴史人物だ、という理屈になる。
間接的な毛沢東崇拝。そのための歴史認識転換。

※これらの独裁者たちは「私生活で華美を好まなかった」とは言っても金欲は深く、莫大な財産を所有していた。複数の妻や愛人を持っていた者も多い。曹操も然り。なお共産リーダーの清貧伝説はたいてい捏造であり、毛沢東は『毛沢東の私生活』で暴露された通り性欲・食欲を貪る毎日だったらしい。


■殺戮を「無かったこと」にする典型的なファシズム番組

もう一つ、上の番組を観ていて覚えた違和感を書いておく。
上の番組では「無実の人々を殺した」という曹操のエピソードが「全てフィクション」ということにされていた。
ナレーターは、
「曹操はこれまでフィクションの中で悪役にされてきたのです!」
と繰り返し強調。
フィクションだから全て嘘なのだ、と言いたいらしい。
(三国志ファンという人種は記録を一切見ず、与えられたフィクションを鵜呑みにする人たちだということが分かっているので。鵜呑みにすることを見込んで)

しかし、曹操が無辜の民を虐殺したり、自分の気分次第で気に食わない家臣を処刑し続けたことは事実のエピソード。

私は『三国志』の演義系フィクションを読んだことがないから詳しく知らないのだけど、『三国演義』は曹操に関することでは史実率が高いように思う。
彼はおそらく地味な諸葛亮などと違い、史実のままでキャラが立っているので、あえてフィクションで足す必要もなかったのかもしれない。
と言うか、現実であまりに曹操の悪役キャラが立ち過ぎているために、バランスを取るため蜀の人物のキャラを捏造するしかなかったのだと思う。フィクション作家のご苦労を察する。

歴史フィクションは確かに鵜呑みにしてしまってはまずい。
しかし歴史学的には、民間の中でどうしてそういうイメージが生まれたのか、少なくとも善悪のポジションくらいには根拠となった歴史事実(現実)があると考えるべき。
曹操の墓が盗掘されまくり、骨もバラバラに砕かれて捨てられていた。しかも現代では小麦畑の下に埋もれていた――という現実こそが、人民の気持ちを表していると思うが?
何の記録もない状態であっても、墓が踏みにじられていれば
「ああ、この人は昔、よほど悪いことをして嫌われていたのだな」
と考えるのが普通だろう。

NHKよ、いや現中国政府よ。
曹操や毛沢東が無辜の民を殺戮したことまでフィクションだということにして、なかったことにするのは最悪の犯罪だ。
そういうことをするなら、日本による南京虐殺も完全になかったことにしていいということになるが? それでいいのか?


まとめ。
NHKには共産主義者が多い、とはよく耳にするが、どうやら本当のよう。
学生運動をしていた団塊世代がトップに居座っているので、共産党員が多いのはある程度仕方がないと思っていたが、現代の中華人民共和国に尻尾を振る番組を作るのは許せない。
かと言って皆が右寄りになってアベサポーターになるべきというわけでは絶対にないのだが。
(ネットで暗躍しているアベサポは共産グループと同じ人員である可能性があるから注意。ついていってはならない。アベサポの主張は本物の「国を憂う」右翼とは全く異なっている)

道義のない外国の政策を、歴史人物を使ってこっそり宣伝するのはあらゆる意味で最低過ぎる。

他国であれ自国であれ、人として道義のない行いを許さないのが報道における「中立」と言えるのでは。

【関連する話】
警告。現代中国の「諸葛亮評価」、この変化に警戒せよ


■孔明のエピソード、孟獲をチョイスした謎

NHKに共産主義者が多いことはよく分かった。
しかしNHKは、『古代中国英雄伝説「曹操と孔明」』『アジア巨大遺跡~始皇帝陵』のような毛沢東崇拝の番組を、中国政府の指示で作っているのか? それとも勝手な忖度で作っているのかは分からない。

おそらく、忖度なのだろうと想像する。
何故そう思うのかと言うと『曹操と孔明』の番組内容に思想の一貫性がなかったので。

前記事で書いた通り、曹操に関する表現ではあからさまに独裁者礼賛、毛沢東崇拝を叫んでいたNHKなのだが、孔明に関する話になると急に左翼トーンが弱くなる。
おそらく共産主義者としては、毛沢東に対する象徴として孔明の評価を必ず落とさなければならないのだが、その論拠が「曹操を名君」ということにした論拠よりもさらに弱い。

NHK曰く、
「赤壁戦で奇策を弄し、大活躍した孔明。
 ところが!
 史実を記した書物には、な・な・なんと、赤壁戦での孔明の軍略は特に記されていないのです。
 ファンの皆さん、大大ショーーック! 残念でした」
笑。
つまりフィクションの設定が事実ではなかったことを論拠として、孔明の評価を落としているつもりらしい。

価値観の、
あまりの低さに
ついていけない。


まあそんな頭の悪い人たち限定で有効な悪評?は、どうでもいいのだけど。
(個人的には史実が伝わることを歓迎する)

不可解だったのは、その後の番組の展開。
諸葛亮という人物を説明するのに、NHKが唯一選んだのは
「孟獲を 七度捕らえ 七度放した」
というエピソードだった。

何故、そのチョイス?
と首を傾げてしまったのだが、番組紹介文を見ると
「諸葛孔明は、実は軍師としての才能より政治家としての才能が勝っていたのではないかと、実像が見直されつつある」
とあるので、どうやら彼の政治力(経世済民力)を表すエピソードとして選んだものであるらしい。

しかし、共産主義者としては誤ったエピソード選択だったと思う。
何故なら、
異民族を人間扱いした孔明。そのために、孟獲の子孫であるイ族は今でも孔明を尊敬している」
というエピソードは、明白に現代中国政府の施策――チベット族・ウイグル族の弾圧――を批判するものとなるのだから。

日本人として生きているとピンと来ないことだろう。
だから日本人感覚で「無意味で無害」に感じられる南征のエピソードを選んだのだと思う。

あるいは、曹操の部分は共産主義者が担当し、孔明の部分は一般日本人が担当したのか?
だとすればNHK内部で思想的な対立が生まれ、共産主義一色に染まっているわけではないことの証になり、期待が持てるのだが。

いずれにしろ、この孔明エピソードのチョイスのために、番組は前半と後半で思想的に引き裂かれ対立してしまった。
S氏へ尻尾を振るためにこの番組を作った党員たちは、とても主席サマへ見せられないものを作ってしまったな。この番組は彼らが崇めるリーダー、S氏の逆鱗に触れることだろう。

この番組の後半を作ってくれたスタッフに感謝したい。
現に壮絶な暴力をふるわれているチベット・ウイグルの人たちのために、この番組後半の精神が広まることを切に願う。


*

この番組を観て、私も『孔明ってどんな人?』記事に孟獲とのエピソードを追加しておいた。
忘れていたのは済まないことだと思う。
何故忘れてしまうのかと言うと、孔明の欠点以外のエピソードに私は関心がなかったので。(欠点にばかり目がいく。悪い癖)
でもこれこそ忘れてはならないエピソードだった。

右だの、左だの、本当にくだらないことだと私は思う。
主義や思想も、国家への帰属意識も、民族もどうでもいい。暴力の本質は同じだ。
私は誰が誰に行うにせよ、弱い対象へふるわれる暴力が許せない。人として道理の通らない行いが許せない。
もし古代のエピソードがこのような非道理を防ぐために役に立つなら、伝えていくべきだと思う。
どうか伝えて欲しい。

関連リンク
 ・チベット問題
 ・ウイグル弾圧

三国志カテゴリ
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吉野 圭-Yoshino Kei
Posted by吉野 圭-Yoshino Kei


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