『アルジャーノンに花束を』は、あなたを知る物語である(小説とドラマの感想)

 


 TBSで『アルジャーノンに花束を』が再びドラマ化された。
脚本は野島伸司。(※脚本監修、だそうです)
第一回目を観たところ、「野島ワールド」と言えるオリジナルな世界観に創り変えられていて、これはこれで悪くないと思った。
古くて良い曲をBGMとし、物悲しくも心温まるシーンを連ねるスタイルに、ちょっと懐かしい『未成年』を思い出す。
いしだ壱成に河相我聞、萩原聖人など、往年の少年俳優たちが出ているのも懐かしく思った。皆さんあまりにもオジサンになっていて始め気付かなかったが(笑)。

野島ドラマなので最初はこのように雰囲気の良い感じで始まるのだが、そのうち泥沼になるぞという警戒感はある。
今回は原作があるのだから、どうか原作に頼って落ち着いて物語を続けて欲しいものだけど。どうなることやら。また泥沼が始まるまでしばしのお付き合いだ。

『アルジャーノンに花束を』のドラマ化については、いつも期待はしていない。
2002年のユースケ・サンタマリア主演のドラマは今回のよりは原作に忠実だが、ドラマはドラマ。二次は二次。
そもそも『アルジャーノンに花束を』は小説で、日記形式のあの技巧を味わうのが醍醐味だからドラマなどの二次作品は「別物」と思っている。
本当は小説を読むべきだと思う。 
日本語訳が素晴らしいので、日本語で十分に(噂によれば原文以上に)堪能できるはず。

アルジャーノンに花束を 改訂版 単行本 – 1989/4/1
ダニエル キイス (著), 小尾 芙佐 (翻訳)


ただ設定だけでも、この物語が持つ力は確かに大きい。

「知的障がい者」として仲間に可愛がられながらもバカにされていた主人公が、科学の力で高い知能を獲得し、自分が置かれていた立場に気付いていく。
それとともに周りの態度も変化し、どんどん孤独になり、最後は……。

この哀しい物語について多くの人が様々な感想を言うはずだ。
その感想に人の本性が出るから、観察すると面白い。
たとえば前回のユースケの時のドラマでは、ある種の人たちが主人公に対し
「知恵遅れだったときは可愛かったのに、頭が良くなってからはすっごいムカつく!」
という感想を言っていた。
この感想には人の非情さと残酷さ、嫉妬という醜い心が映し出されている。

アルジャーノンと主人公を見ているのだと思って物語をていると、実は自分の姿を見せられてしまうのだ。
そんな真実を映す鏡のような物語が、『アルジャーノンに花束を』。
だからこの物語を「恐ろしい」と感じる人もいる。
感動作だと思って見ていると、思わぬ自分の本性を目の当たりにして衝撃を受けるかもしれませんよ。

(後日投稿)ドラマ感想


2015年版『アルジャーノンに花束を』は最後まで見てしまいました。
原作『アルジャーノン』のドラマ化と言うよりは、『アルジャーノン』設定をモチーフとした新しい物語という感じかな。
美しく整え過ぎですから、おそらくこのドラマは「不朽の名作」とはならないでしょう。
原作は「名作」です。悲しい物語ですが、人の心を暴き出す鏡として今も読み継がれているのだと思います。

ただ、今回のドラマ、私は好きですね。
全体に流れる人への優しさに涙せずにはいられませんでした。
何故か懐かしい情景にも、優しく心を撫でられた気がします。

このドラマを眺めながら私は色々考えました。個人的なことなどを。

人は、「普通」が一番幸せです。
でも「普通」であることは、とてもとても難しいです。

私は天才だった瞬間など一瞬たりともなかったのですが、それでも何故かずっと疎外感だけは感じてきました。
精一杯、「普通」であろうとしたのについに「普通」にはなれなかった気がします。
他人より余分に持っていると言うよりも、足りないのです。
これも一種の障碍のようなものです。

人と対等になれないことの悲しみをこの物語はうまく描き出している。
下でも上でも仲間になれないのだという悲しみを。

今回のドラマは優し過ぎるファンタジーでしたが、主人公への共感の涙で、ほんの少し傷を癒してくれました。
脚本家さんへ。ありがとう。

 

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