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いよいよ大阪G20が始まった。
日本社会は相変わらずお子様ばかりで世界への関心など皆無だが。テロなどなく、無事に終わることを祈る。

そんな世紀のイベント直前の昨日、たまたま録画していた映画『帰ってきたヒトラー』(2015年ドイツ)を観た。
軽いコメディだと思って観たのだが、意外にもシリアスで核心を突く映画だった。これは名作かもしれない。



ヨーロッパ系の独特な表現


以前から知っていた映画紹介では、
「1945年、地下壕で死んだはずのヒトラーがタイムスリップして現代へ! 演説の才能を活かし、コメディアンとしてテレビ出演し人気者になる」
というストーリーだということだった。
それで勝手なイメージにて、「ヒトラーが現代で人気タレントになって、ごく普通の“いい人”へ変わっていく」というアメリカ制作映画のコメディにありがちな展開を期待して観た。

しかし冒頭から期待は裏切られた。良い意味でも悪い意味でも。

まず制作は本場ドイツ。久しぶりにヨーロッパ系の映画を観たが、やはり未だに表現が独特で、「え、これ1960年代の映画ではないよね?」と思わず制作年を確認してしまった。
日本やアメリカ制映画の、分かりやすく親切なストーリー展開に慣れた人は入り込めない可能性大。
展開も詳細な説明を省いて進む。主人公ヒトラーについての説明はほぼゼロ。
観客が全員、ヒトラーをよく知っているという前提で描かれている。ヒトラーが何をした人で・いつ・どこで死んだかなどの基礎知識がない外国人にとっては、冒頭から「何の映画か」すら理解するのが難しいだろう。(日本人には「何これ意味わかんない」と怒る人が多いだろうと想像する。知識がなければ風刺は意味不明だものな)

筋の基本はSFファンタジーで、
「死んだはずのヒトラーがタイムスリップして現代へ来た」
という設定なのにも関わらず、どうして現代へスリップしたのか、時空異変などSF的な説明は一切なされない。日本映画なら必ず何でもこじつけて説明するところ。
まあ、確かに主題には関係ないのだから表現する必要はないのだが。

こういったシュールで分かりづらいヨーロッパ映画らしい特徴が、むしろ本格感を醸し出している。
そう、物語はお客さんに合わせて程度を低くする必要はないし、説明し過ぎる必要もない。
「枝葉のことなどどうでもいい、主題のみ描けばそれでいい。客も勉強してこっちのレベルについて来い」という突き放した態度が私は嫌いではない。
SF的に筋が通っていなくても構わない。制作者が描きたいのはSFではないだろうから。
映像にもこだわらなくていい。爆発物に金をかけるなど下の下。
この映画製作者が伝えたいのはそんな表面的な、枝葉のことではないと分かる。物語で風刺される「今この時のリアル」を伝えたいのだ。

観客に迎合せず潔く主題のみ描く。
芸術も哲学思想も、これだから西欧には敵わないなと思う。


まさかのドキュメンタリーだった


この映画は冒頭から少し進むと、ある違和感が心を捉える。
街角でインタビューに答える「役者」たちが妙にリアルで、現実の人のように見えるのだ。

しばらく眺めていて、ようやく気付いた。
これは実際にヒトラーに扮した役者が街へ繰り出し、現実の人々にインタビューしている半ドキュメンタリー映画なのだと……。
(遅い)

気付いてから背筋が寒くなった。
ナチス総統の軍服を着たヒトラー風の役者が街を歩いていてもドイツ国民は特に気にしないのか。
へらへら笑い手を振ったり、あげくに彼と並んでスマホで写真撮影をする人もいる。
ナチスの服装に怒りをあらわにしたり挑発してくる人もたまにいるのだが、割合としてはほんの僅か。
インタビューでも多くの人は「総統」とにこやかに会話し、隠れ右翼であることを告白する人もいる。

驚いたな……。あれが今のドイツの実態か。
始め私は、総統が街を普通に歩いている設定に引っ掛かりを覚え、
「ナチスの服装をしてベルリンを歩いたら逮捕されるか、袋叩きに遭うはず。この映画にそういう設定がないのは何故? リアルさに欠けるな」
と思っていた。しかしまさかこちらのほうがリアルだったとは。

日本国民としては、お寺を意味する「まんじ卍」マークに抗議してくるほどドイツ人は神経質なイメージ。
挙手はドイツ人には「ハイル!」に見えて怒られるから、西欧人が旅行に来るような場所では手を上げないよう気を付けなければ、とも思っていた。
ところが現代ドイツ人はもうトラウマを解消し過去を忘れたようだ。ヒトラーもお笑いアイドル、オモチャ扱いされるようになったか。
意外なことばかり。聴いていた話と違う。

日本に入ってくる情報はあまり正確ではないらしい。現実の映像はやはり勉強になるなと思った。
現実だからこそ恐怖も深い。

恐怖は物語が進むに従って増していく。
絶妙な匙加減でフィクションとリアルを織り交ぜた映像が、恐怖を体感させる。


現実の「総統」が今ここにいたらどうなるか?


この映画では、ヒトラーはヒトラー本人でしかなく、現代生活で軟化してイイ人になったりもしない。
犬が噛み付けば銃で簡単に殺してしまうし、ユダヤ人も殺して当然と言い続ける。

こういうところがリアルだなと思った。
現実で人間はそう簡単には変われない。
転生し、新たな地で昔と全く違う教育を受けてさえ性格の根本は変わらないのに、ましてタイムスリップで人格が変貌するわけがない。
よくアニメであるような、タイムスリップした悪人が現代の平和生活で軟化し、「イイ人」に変貌するような設定は嘘っぽいし無意味だ。環境や教育で人は簡単に変わるもの、などという甘い考えを植え付けるのは有害だと思う。

当然ながらヒトラーの演説の天才性も健在だ。
始め沈黙をして人々の関心を集め、小声で語り出して次第に絶叫する……という往年のパフォーマンスが再現された。

確信の篭もった話しぶりも変わらない。
街の人々との対話で熱く語るヒトラーの話は確かに魅力があり、
「これだから当時のドイツ人も魅了されて騙されたのだ」
と納得させられる。
役者と対話している街角の人々が、目を輝かせ話に熱中する様子は当時の再現フィルムを見せられているのかと錯覚した。

監督はヒトラーを詳細に研究しているし、役者さんも再現が超絶にうまい。
アメリカ映画などで演じられるヒトラーとはレベル違いに本物らしさがある。
歴史を伝える目的ではなく、あくまでも「現実のヒトラーを現代で体感させる」ことを目的としているのだなと分かる。

まるで過去体験のバーチャル・リアリティ映画。
我々は白黒の映像でヒトラー本人を眺めることができるが、こうしてカラー映像で、現代を舞台にして見せられて初めて感じられることがある。
そうして悟る、これは過去ではなく今この時代に起きている現実なのだと。

映画内でも描かれている通り、既に右傾化はドイツで起きている現実だ。
この映画を観て、今ヒトラーのような人が現れたらドイツ国民は間違いなく当時と同じ選択をするだろうと分かった。


改めて、現代民主主義のシステム欠陥を考える


映画の中でヒトラーは何度も「民主主義」という言葉を口にする。自分が民主主義を体現していると強調しているのだ。

さらに、ヒトラーが呟いた言葉に恐怖を覚える。

「あの当時も、国民は始め私を見て笑っていたのだ」
「私が扇動者? 私が国民を扇動したわけではない、私の計画を国民が選んだのだ」
……
全くその通りだと思う。

ヒトラーは民主主義の申し子だ。
あの当時のドイツ国民たちは自分が選んでおきながら、戦況が悪くなると「我々は扇動者に騙されたのだ」と言ってヒトラー独りに責任を押し付け罪を逃れた。

最近のドイツ国民も危機感がなく、ナチスのトラウマを忘れ移民への憎悪を叫んでいる。

再びドイツはヒトラーに似た人物を選ぶだろう。ドイツに限らず外国も。
いついかなる時代や国家でも、あの時代と似たことは起こる。
いくら危機感を叫んでも一般民の心に浸透するはずがない。

だから私は早急にシステムの欠陥を何とかすべきと思う。
アクセルだけでブレーキ機能のない、半端な民主主義を。

私が今一番恐れているのは、アメリカ合衆国で極左の大統領が生まれることだ。
今のトランプ氏が右翼を気取っているために、次期は極端に左――K産主義へ傾きかねない。そうなれば世界が一気に左へ逆転される。
そして憲法が変えられ、世界一の大国アメリカで一党独裁が常態化すれば完全絶望だ。
自由も人権も、二度とこの世で叫ぶことはできなくなる。
政府は大虐殺しほうだい、弱者が永久的に虐げられ続ける暗黒の世界が到来する。

一般民が気分だけで選挙をする幼稚な民主主義がこのまま続く限り、いつでもこのような絶望世界は訪れ得る。


映画感想を離れ、呟き


いつも書いているが、私は民主主義がいけないと言う者ではない。
民主主義の理念は最上だ。
「民」は世界の「主人」。これはいつの時代でも真実だ。ただし民の我が侭に従うのは違う。
為政者は民の下僕として尽くすべきなのだが、民のどんな我が侭でも唯々諾々と聞いているだけでは社会が暴走する。

為政者が「民意」を反映しながらも、暴走をコントロールし、人道や道義を第一とする国家システムが理想。

「それが議会民主制だ」と言うのが建前なのだけど、全く実現していないよな。
民を想い、人道主義の国家へ導くつもりがある政治家など現代には皆無だ。

ああ、どういう社会システムにすれば、皆の人権が守られ道義が叶うまともな世界が実現するのだろうな……?

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吉野 圭-Yoshino Kei
Posted by吉野 圭-Yoshino Kei


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