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映画『レッドクリフ』について2008年に書いた感想です。多少お世辞を書いたところがあります。(批判してばかりだと私も辛いので。が、全体に辛口です)

〔目次〕
紹介、『三国志』ハイクオリティ映像化の感慨
感想(辛口)
これはダメだろと思う箇所、突っ込み
Ⅱの感想
ネタバレ、細かいこと


映画の紹介

『レッドクリフ』見に行きました。
感慨深かったです。

莫大な制作費と豪華俳優陣によるハイクオリティな映像。この映像での、『三国志』世界進出。東洋1800年の夢が叶った瞬間と言えるかもしれません。
1800年前にこんな未来が訪れると誰が想像したでしょうか?
いや、ほんの十年前でさえこんな映画が実現可能とは想像も出来なかった。
私もその当時、「ジョン・ウーあたりがハリウッドで三国志を映像化しないかな」とは言っていたものの、冗談に過ぎませんでした。今思えば、冗談が叶ってしまったわけです。

東洋的な映像の西洋進出の道を決定的に拓いたのは、チャン・イーモウ『英雄』だったのではないかと思います。が、今回は寓話ではなく東洋に昔からある物語をそのまま持ち出したことに意義があるかも。
この東洋文化を世界中の人々が目撃するということに、映画史上だけではなく、歴史的な意義も私は感じてしまうものです。
大げさかな。でも歴史を考えると少しは泣いてもいいかもしれない。


感想

……しかし……、惜しい。
(以下辛口)

歴史的な意義は非常に深いけれども、映画としては惜しい、と思いました。

純粋に映画として見た時の感想は、“退屈な映画”。 
すみません。
一緒に見ていた人の正直な感想、
「いつ面白くなるんだろう?いつ面白くなるんだろう?と首を傾げながら見ていたら、とうとうつまらないまま終わってしまった」

それはそうでしょう。
いきなり話の途中から始まったのですから。
登場人物への感情移入も出来ず、時代背景さえ飲み込めないまま、淡々と映像を流される。
(あんな簡単な解説でどうやって物語に入り込めと。学校の授業か)
知らない人はちんぷんかんぷんだと思います。
知っている私も何の思想を中心に物語を見れば良いのか、どの台詞に共感を抱けば良いのか、全く見出せないままでした。
台詞や物語展開に思想も感情もなく、無味乾燥。ただ場面を繋ぎ合わせただけで無理やり進む。

知り過ぎている人が描くとこうなりがち、という典型でしょうか。
あまりにも自分にとってはお馴染み過ぎる物語なので、他人もよく知っていると錯覚してしまう。そしてお気に入りの場面をディスプレイするだけで自己満足する。
長年それが当たり前の文化に浸かって来たのだから仕方ないことなのかもしれない。
だからよく西洋人が東洋系の映画を作ると核心がうまく描写される。
『三国志』も外国人に作ってもらうべきだったのでは、と残念なことを言ってしまいたくなりました。

もっとストーリーに軸を持たせて、見ている人が感情移入出来るよう一人に焦点を当て(古典の『三国志』では普通これが劉備になりますが)、オリジナルの思想を持って描いたなら、世界的に『三国志』は受け入れられたかもしれないですね。
残念ながら、これでは西の人たちに理解不能でしょう。
『トロイ』みたいな話、という誤解だけ持ってくれるかもしれないけれども。

 

突っ込み

具体的な突っ込み。

 ※要注意 ネタバレあります※

・船の上を飛ぶ白鳩、ヘレネの登場、アルキメデス戦法、等々……西の人たちに分かりやすくするのは結構ですが、闇雲に西洋アイテムを出し過ぎのような気がしました。単に西洋人に分かりやすく、というつもりで無思想なら、要らぬ誤解を与えるだけだと思います。

・ストーリーの結論として、曹操が女目的で戦争を仕掛けた、てことになってしまいましたか。あらら。
天下簒奪の野望はどこへやら。これでは三国時代の根本がぶち壊し。もともと三国時代の戦乱がなかったことにさえなります。 物語は赤壁で始まり赤壁で終わるしかなくなりますね。
そして西の人たちは当分の間、『三国志』は女の取り合い戦争だと誤解を持ち続けることになる…。ううん、イーリアス。

・劉備が妻子を民の中へ放ったこと、そのために妻子が殺されたこと。これは記録に残る事実です。
そして追手に惨殺されたのは武装した兵士たちではなく一般民衆だった。これも歴史的に覆すことの出来ない事実。
その事実をカットしましたね?
こういうことはしてはいけない。少なくとも、醜い歴史的事実はカットしてはいけないと思う。荒唐無稽なフィクションの『演義』でさえ、こういう醜い場面をカットしていない。
臭い物に蓋をしたら、その蓋こそ臭いのだと私は思います。

・曹操軍80万。第二次世界大戦時の連合軍か?
あり得ない数字ですが、この数を現実だと思い込む人がまた多くなりそう。
以前友人が、「三国時代で兵力何十万」という話をあたかも現実であるかのように話しているので、「ファンタジーゲームのやり過ぎだよ」と私は笑ってしまったことがある。済まない。
その後に知ったことだが、一般的な三国志では、「数十万」という兵数が当たり前に出て来るらしい。(創作の三国志は読まない私、フィクション設定を知らない。心底びっくりした)
現実は確か、曹操軍の公表で10万。それすらおそらく嘘で、実際は7万とか8万とかだったのではないかと思う。
さてジョン・ウーはこの80万という数字を本気で信じているのか、それとも皆が鵜呑みにするのを楽しみに見ているのか。歴史ファンの方々は創作を楽しむのもいいがたまには現実も勉強して欲しいと願います。せめて近現代でも勉強すればあり得ない設定か否かの判別がつくはず。
温故知新、フィクションを鵜呑みにしていては頭が悪くなるだけ。

ここで言うフィクションとは演義だけではなく『蒼天航路』もです。

参考記事 赤壁戦の話は現実なのか? 三国志フィクションで誤解が浸透している話、本当のところ

<追記12/16>
・周ユと孔明の音曲セッション。あの場面は眠かった。ああいうファン向けの場面をこれみよがしに挿入するセンスが嫌だ。(好きな方ごめんね)
だいたい周ユは確かに無類の音曲好きだったが、諸葛亮が楽器の演奏が得意だったなどという証拠はどこにあるのか。たぶん劉基(=皆様のイメージする孔明。フィクション上の孔明のモデル)という人は楽器も占いも得意だったのだろうけど。
もし周ユと音曲のセッションで盛り上がった人がいるとすれば、それは劉備だろう。
劉備は若い頃、音曲にはまっていた。周ユと会った時も音曲の話題で盛り上がったという。
だから周ユと劉備がセッションした可能性なら、現実におおいにある……と、そんな場面は誰も見たくない?

・「正義」って……「悪人」って……。
あまりの浅い台詞に頭が真っ白になりました。
最近のアメリカの誰かの演説を聞いているようだなあ。
独裁者は悪人だと私は思いませんがね。我がままな奴は我がままな奴というだけで、傍迷惑だなとは思いますが。
正義とかいう言葉、虫唾が走るからやめて欲しいですね。
(でも古典の『三国演義』もこのレベルだったように思います。だから私はフィクションが苦手です)
【正義という言葉について】三国志における大義論(総論)

 他に軽めの話、

・金城氏は何であんなにニヤけた演技をしているのだろう?
と思っていたらトニーが「その笑みは何です?」と突っ込んでくれた。笑いました。
孔明ってあんなにニヤけているイメージなのか。なるほど嫌な感じですね。勉強になります。

・三十代前半の役をやったトニーは素晴らしい。あの方はいったい、いくつなんだろう。尊敬します。
でも金城氏は地味な役が似合いません。
金城氏には周ユのほうが絶対に似合う。お洒落で、雅な周ユには、派手な衣装がはまる金城が演じれば近いように思います。年齢も近いし。
それにしてもこの映画では、孫権と孔明が同い年には見えなかった。
Age35です金城さん。
あまり言いたくないけれども、さすがにもう十歳近くの差を埋めるのは難しいんだなと考えた。

・獅童、渋い演技が良かった。立ち回りが自然に見えて、唯一かっこ良く思えたのはやはり日本人のせいか。でも人の動きは本来こうあるべきだと思った。人形劇のような仕草や表情はどうも苦手で受け付けられない。

・リン・チーリン。幼い頃の憧れを思い出しました。夢に出て来るような女性。


さんざん文句を書いてしまいましたが、ともかくこの映画が上映されたことは本当に嬉しく思っています。

映像的には素晴らしかったです。このリアルさは昔のアジア映画ではあり得ない。
だからやはり夢は叶ったと言えるのかもしれません。 
私はもっと船と河の映像をじっくり眺めたかったのですが、それは2のほうですね。
景色を眺めるために2も見に行きます。


■Ⅱの感想


『レッドクリフ』Ⅱ、観て来ました。

映画館で周りの様子を観察していたら、始まって早々、いびきをかいて寝る人が続出。
たぶん彼氏に無理やり連れて来られたのだろう女子は、映画が始まってからもずっと携帯でメールを打っていた。
……これが「ヒット」の実態。数字だけでは分からないものです。
十万(映画では八十万だが史実はこの程度)という兵数で威圧しておきながら、実態は烏合の衆だった曹操軍になんだか似ているのが皮肉でした。
数だけの観客よりも、少数の深い感動を求めたほうがいいのでは?と思った。


しかし。
意外。Ⅱは良かった マシだった!
(ここはお世辞を書いてしまいました。ごめんなさい)

Ⅰを観て「つ、つまんねー。なんだこりゃ」と思った人も、Ⅱはちゃんと姿勢を正して観たほうがいいかもしれない。

と言うより観る価値あるのはⅡのほうで、Ⅰは要らなかったのではないかと思う。

一緒に観に行った人(三国志を全く知らない)談:
「Ⅰはなんであんなにダラダラやったんだ? あそこまで長い時間かけるなら、赤壁戦までの三国志のストーリーをダイジェストに紹介して欲しかった。これじゃ話がぜんぜん分かんねーよ。Ⅰの映画代返せ!!」

うん。同感。
監督はⅡだけを作りたかったのだろうし、Ⅱだけで良かった。
Ⅰを作ったのは逆にマイナスだったかもしれない。

Ⅱは話に入り込めます。(あくまでもⅠよりも、ですが)

赤壁戦シーンの映像の迫力が物凄い。
腹に響く爆音、詳細でリアリティある戦闘シーン。
さすが百億円です。参った。私でさえ興奮した。
よくこんな映像を撮ったものです。戦闘の映像だけで価値あります。

特に良いと思ったのは、殺される人の呻き声や血しぶき(控えめですが)が描かれていることでした。
敵・味方問わず、死んでいく兵士に憐れをもよおす。
戦場というのは悲惨だ、気持ち悪い、人殺しは嫌だと感じる。
これが大事。

このあたりの描写は、ジョン・ウーがハリウッドの近代戦争映画から学んだリアリティかと思います。

戦乱の時代を舞台にした創作の最大の罪だと私が思うのは、戦争を「楽しそうに」描くこと。
無敵の軍隊や、天才的作戦を使って、心地いいくらい敵を殺しまくっていく。
この“絶対的 有力感”は快楽だから、これを描いてしまうと人間は中毒する。
この悦楽に「ハマる」のが今までの三国志であり、英雄譚だろうと思うのですが、有力感に中毒してばかりいると現実が荒みます。
ただちに戦争賛美の人間を作るとは言えない。けれど能力の優劣だけで他人をはかるようになる人も中にはいるのではないでしょうか? 

戦争創作は現実と同じく、人は戦場で呻き声をあげて悲惨に死んでいかなければならない。
家族も愛する人もいる、自分たちと同じ人間がです。

だから『レッドクリフ』で、僅かながらも戦場の悲惨が描かれていることが嬉しかった。
たいして深い考えからではなく、「単なるハリウッド手法のパクリ」と言ってしまえばそれまでですが、だとしても嬉しかったです。
この点は明らかに今までの歴史物と違う。
時代を変える希望ある進化です。
(有難う、ジョン・ウー!)
 
個人的に私は赤壁の戦闘シーンで、映画・戦艦大和の場面と重ねてしまった。
それで、思わず曹操軍に憐れをもよおした。
本当にこの時の曹操軍は悲惨だと思う。
曹操は増長した報いだから仕方がないとしても、この戦闘に巻き込まれた兵は。

連艦したため大敗を喫してしまうという、嘘みたいに間抜けだが史実だという話も、どこか近代戦争の「爆撃弾の取替えにてこずって大敗する」話に近いように思えてしまった。
事実は小説より奇なり、
信じがたいミスが歴史を決してしまうのだなあと、この映画を観ていて改めて考えていた。

※2018年追記 他人事で言うな……と怒りを覚えた方、ここは他人事で良いと思います。理由は他記事を読んでください。  

■他。ネタバレ


劉備の描き方に最初は腹が立ち、「ジョン・ウーに抗議してやる」と怨念を送っていたのだが、どんでん返しで。見事やられた。
(三国志を知らず素直に観ていた人は、ハリウッド的な展開だったため読めていたらしい。これは歴史を知っているほうが「あっちの説を採ったのか」と思い込み騙されるかもしれない)

苦肉の策をなくしたのは非常に残念だ。
迫力ある史実であるし、義理や忠節を表す最も良いシーンではないか。
部下に対する暴力が欧米で批判を受けるのではないか、と考慮して手心をくわえたのだろうが、これでは黄蓋を侮辱している。

とは言え美しい女性が活躍する場面は良い。
女性に焦点を当てた部分の創作はエンターテイメントとして楽しめる。

そして。

ラストシーンで虹が出たことに心底驚愕した!

「虹を描いたら褒めてやるよ、ジョン・ウー」
と(上から目線で)思っていたのだが、まさか現実に虹を描くとは。

東洋で、虹は悪い象徴なので戦闘勝利の場面で描くことはないだろう。

しかし現実では虹が出たはずだ。

現実、本格決戦は夜間ではない。
前もっての火攻めで曹操軍が弱った後、日中。

風が強くよく晴れ、日が照り、そこに激しい水上船で水しぶきが上がった。
あまりにも大量に水しぶきが上がり、強風が舞い上げたために河上に巨大な虹がかかった。……はず。

これは私のイメージだが、理論上もそうなると思う。 ここまでジョン・ウーが当日の環境を考慮に入れて虹を描いたとしたら凄いなと唸った。

いや、違うかな?
(これはキリスト教に親しんだジョン・ウーならではの、根っからに西洋的な意味での“虹”=神との契約・希望の象徴を表したものだろう)


感想は以上。
レッドクリフ、映像だけはなかなか良いことは確か。「映画は火薬の量でしょ」って人にお薦めの映画ですね。笑
個人的に、私はいつも三国志創作には落胆させられます。

【関連記事】 赤壁戦の話はどこまで現実なのか? 他、三国志フィクションで誤解が浸透している話、本当のところ
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吉野 圭-Yoshino Kei
Posted by吉野 圭-Yoshino Kei


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