2013
Nov
07
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「金儲けは正義」という言葉の弊害

昨日は「子供たちに金儲けの話をする」という番組を観ていました。ジブリの鈴木氏の話が聞きたくて観たのですが。
さすがに鈴木氏の話は面白かったし含蓄ありました。
意外にガンホー社長の話も感銘を受けた。(彼にはジブリと共通の精神があると思います)
だが全体にこれは「金儲けは正義」という思想を子供に説くための番組のようですね。
子供たちや若者に「金儲けは良いこと」と教えるのは経済を活性化させ、景気を上げて皆が幸福になる道。
そう考えるのは理屈に適っているし、確かに皆が金に興味を持てば豊かな国となるだろう。
だから、「金儲けは正義」とは一見、正しい論理のように思えます。
しかし私はやはり、違和感を覚えずにいられませんでした。
何より「金儲けは正義」という単純化したフレーズを、まだ何も知らない子供の脳に植え付けるのは怖いなと思うのです。
ここで「金儲けは正義」という言葉を口にした張本人、ネスレ社長を責めるわけではありません。きちんと話を聞けば彼は正当なことを言っていますし、悪いところは何もないと思います。
だけど怖いのは、そういう全体の話はほとんどの人に聞いてもらえず、必ず「金儲けは正義」という単純なフレーズだけ残ってしまうことなんですよね。
その結果として生まれて来るのが、最後に登場した弁護士のような人かなって思いました。
彼は青色発光ダイオード訴訟に若くして携わったそうで、(その裁判を主導したのは知財のベテラン升永英俊だが)弁護士として非常に優秀であることは確かです。
優秀であることの証として年収4億を稼いでいる。それは正当でしょう。
しかし、ホームレスの写真を出し、
「この人と自分との違いは何か? 創意工夫があることだ」
と暗に自慢し
「創意工夫さえあれば、皆さんもこうはならない。こうならないように努力しましょう」
と金儲けは正義という思想を説く……。
これは、ダメでしょう。
むろん、この弁護士は口ではそうは言っていないんですがね。
「世の中には格差がある」「この格差は努力しだいで埋められる」と正義っぽく主張していますが、その裏にあるのは
「ホームレスは努力しないからこうなったんだ。駄目人間、屑だ」
という軽蔑と差別です。
それを口にしないことがさらにまずい。
たぶんこの弁護士さん自身も自分の差別心に気付いていないのだと思いますが、そういう無意識の差別を、“暗に”写真などのイメージだけで伝えますと子供の心にはさらに深く差別が根付きます。
放送すべきではなかったですね、この人の話は。
そもそもこの弁護士が何故、このような差別心を持つに至ったかと言うと、それこそまさに
「金儲けは正義」
という単純化されたフレーズの効用だと思います。
きっと彼は子供の頃に「金儲けは正義」という思想を親から教え込まれたか、世間を眺めて刷り込まれたのでしょう。
(ちょうどバブル期に少年時代を過ごしていますので、そのように育った可能性は高い)
……少し話が逸れますが、
最近の弁護士のなかには、訴訟の必要がないのに訴訟を起こさせ金儲けをしようとする者がいます。
これを弁護士事務所では「売上」と呼び、訴訟件数(獲得報酬)を「営業ノルマ」として勤務弁護士同士で競わせているところもあるくらいです。
無駄な訴訟で得をするのは弁護士だけ。
依頼人は弁護士報酬と訴訟に割く時間でボロボロとなり、相手方は破産する。
どうか気を付けてください。訴訟は必ずしも必要ではないときがあります。なるべく訴訟を避けるようアドバイスされたら、その弁護士は良心的と言えます。
※つまり人をそそのかして訴訟を起こさせ、弁護士だけ金儲けする。これを「正義」だと一部の弁護士たちは思い込んでいるわけです。これはその弁護士本人以外から見れば、明らかに間違った正義と分かるのではないでしょうか。
☆
まとめ。
昨今の時代の流れとして、
「金儲けは正義」
という思想が良薬のように受け止められ、大人も大真面目に子供へ教え込んでいます。
それを経済の理屈として否定することは出来ません。
だけど、
“なにか違和感がある”
と皆が本能で感じるということは、人間にとって副作用の大き過ぎる薬である証です。
人類の長い歴史においてずっと「金を貪るのは悪」と説かれてきたのは、金を貪ることに、何か無知な現代人には想像もつかない害があるからではないかと私は思います。
たとえば医療で言いますと、近年ようやく漢方薬の有益さや、科学物質・遺伝子組み換え食品の根深い弊害が分かってきました。
無知な現代科学によって、長い歴史に蓄積された知恵が破壊された結果、多くの病気を招き人類を危機に追い込んでいる。
それと同じような未知の恐ろしい害(精神・社会に対する害)が、「金儲けは正義」という言葉にはある気がします。
この言葉がまずい理由として、一点思い当たるのは
「金儲けは正義」 → 「独占は正義」
という思想にすり替わってしまう可能性です。
「金儲けは正義」という言葉に独占すべきだという意味はないのにも関わらず、たいていの人の頭では「自分だけ金を貪って良いのだ」という意味にすり替わってしまう。
たとえば上の弁護士さんも、どうして年4億も稼ぐ必要があるのでしょうか?
自分と家族が生活していくだけなら、4億も要らないでしょう。
ジブリのように多額の金を稼いだとしても、多数の雇用を生み出していくなら理に適っている。
ネスレなど大手企業も同様。
しかし他の同業者から仕事を奪い、敵から奪い、自分だけが独り勝ちして金を溜め込むというのが「正義」とはとうてい思えないのですが。
それでも現代では「正義」と呼ぶなら、やはり現代は人間がどこかおかしくなっているのかもしれません。
前にも書いた通り、私は「金」で人生を絶たれた人間です。
「金」さえあればどんな学校でも行けただろうし、今頃は人様のお役に立てていただろうと思います。
だから、「金」がないことは私にとっては「悪」であったと言えそうな気もします。
このような経験をした人は、普通は大人になって誰よりも稼ごうとするものなのかもしれませんね。
しかし、相変わらず私は必要以上に稼ぎたいとは思っていません。
生活が出来ているなら、それ以上に貪ることに何の意味があるのかと思ってしまう。
怠け者・駄目人間と批判が殺到しそうですが、私のような人間は現代思想では「悪人」に分類されてしまうのでしょう。
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