2012
Apr
27
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黄蜀葵 ~花の命は短し
数年前の秋。
取引先の奥様がめずらしく私に話し掛けてきた。
「見て見て! オウショクキが咲いたのよ!」
そして黄色の大きな花の写真を見せられた。
「オウショクキ…、ですか?」
花に疎い私。
どのような文字を書くのか見当もつかず聞き返した。
「そう。中国に蜀という地名があるんだけどね。その、蜀の黄色い葵(黄蜀葵)と書くのよ」
奥様は私の趣味を知らない。過去に書いた小説のことなどもちろん知る由もない。
だから私がその地名をよく知っていることも知らないはずだ。
だいたい奥様は、私が花の名に疎いことも承知済み。
どちらかと言うと「この人とは趣味が合わない」と思われているようで、普段はあまり話し掛けて来られない。
それなのに何故、その花に限って嬉々として私に開花を知らせてくれたのか不思議に思っていた。
花になど全く関心のない私だが、地名のおかげで運良くその花の名を覚えていて最近検索してみたところ、なるほど。
奥様が嬉々として写真を見せてくれた理由が分かった。
黄蜀葵は一日で落ちる花なのだ。
http://andoueki.blog26.fc2.com/blog-entry-14.html
鉢植えで初めて育てた黄蜀葵が、たった一日だけ咲いた姿を誰かに見せたかったのだろう。
無粋な私にまで見せるほどに嬉しかったのだと思う。
そんな奥様は今、脳梗塞で倒れ言葉を交わせなくなってしまった。
あの会話を交わしたのも遠い昔に思える。
せめてこの春から黄蜀葵を育ててベッド上の奥様に贈ろうと思ったのだが……どうやら鉢植えにしても室内で育てるのは難しいようだ。
しかも一日しか咲かないのではお持ちすることも出来ない。
大輪の花をたった一日のみ咲かせる。
人の一生のようにはかなくも潔いあの花は、やはり記憶の中にのみ咲くべきものか。
取引先の奥様がめずらしく私に話し掛けてきた。
「見て見て! オウショクキが咲いたのよ!」
そして黄色の大きな花の写真を見せられた。
「オウショクキ…、ですか?」
花に疎い私。
どのような文字を書くのか見当もつかず聞き返した。
「そう。中国に蜀という地名があるんだけどね。その、蜀の黄色い葵(黄蜀葵)と書くのよ」
奥様は私の趣味を知らない。過去に書いた小説のことなどもちろん知る由もない。
だから私がその地名をよく知っていることも知らないはずだ。
だいたい奥様は、私が花の名に疎いことも承知済み。
どちらかと言うと「この人とは趣味が合わない」と思われているようで、普段はあまり話し掛けて来られない。
それなのに何故、その花に限って嬉々として私に開花を知らせてくれたのか不思議に思っていた。
花になど全く関心のない私だが、地名のおかげで運良くその花の名を覚えていて最近検索してみたところ、なるほど。
奥様が嬉々として写真を見せてくれた理由が分かった。
黄蜀葵は一日で落ちる花なのだ。
http://andoueki.blog26.fc2.com/blog-entry-14.html
鉢植えで初めて育てた黄蜀葵が、たった一日だけ咲いた姿を誰かに見せたかったのだろう。
無粋な私にまで見せるほどに嬉しかったのだと思う。
そんな奥様は今、脳梗塞で倒れ言葉を交わせなくなってしまった。
あの会話を交わしたのも遠い昔に思える。
せめてこの春から黄蜀葵を育ててベッド上の奥様に贈ろうと思ったのだが……どうやら鉢植えにしても室内で育てるのは難しいようだ。
しかも一日しか咲かないのではお持ちすることも出来ない。
大輪の花をたった一日のみ咲かせる。
人の一生のようにはかなくも潔いあの花は、やはり記憶の中にのみ咲くべきものか。
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